「自然の摂理を見極め、活かす」受け継がれる生業の姿勢

長年炭焼を続けてきた橋本一意さん。その孫の拓実さんは和牛の繁殖農家を営む。お互いに、自然の摂理を見極め、活かす、その姿勢は共通しているという。【宮城県色麻町(取材:2018.02)】

雪の中の炭焼き小屋

2月下旬、船形山の尾根筋に囲まれた小栗山地区は5キロほど離れた市街地と比べて雪が深い。冬枯れの山々は沈黙し、重く固まった雪があらゆる色彩を冬という季節に閉じ込めていた。音も色も無く、時まで止まってしまったかのような景色の中でただ一つ、小さな小屋から立ち上る白い煙だけが絶えず動いて変化し、春へと歩み寄る時の流れを感じさせた。

角材や太い木の枝を組み合わせた部材にトタンやベニヤを張った簡素な作りの小屋は、中の窯を雨風から守るためのものだ。煙の立ち上る小屋は炭焼き小屋だった。「二十歳前からしでっがら、今80だがら60年以上になんでねえが。後継者いねえがら、俺の代で終わりだな」そう言って、橋本一意さん(80)は薪割りの手を休め、窯の上で手を暖め始めた。同じように手を置いてみると、まるで生き物に触れているようなじんわりとした暖かみが伝わってきた。

火を入れて4、5日間、近くの家から通って窯の火を絶やさないようにする。窯の中は見えないが、煙の様子と温度で炭の焼け具合を判断し、火力を調整する。「最初は白い煙。そしで焼けでくっど、白い煙が澄んでるような感じになって、鼻に刺さるような匂いがしでくんだな。それから、浅葱色の煙になるわけだ。そうすると窯の温度も上がっでくるから」

ひとつの火が起こって消えるまで、その世話をするのが炭焼きだ。窯は深く深呼吸するように、ときどき大きく煙を吐いた。

和牛の繁殖

「40頭いても毎日顔を突き合わせてやっているんで 、どれがどの牛か、ぱっと顔を見ただけでわかります」一意さんの孫の橋本拓未さん(31)は、21歳のときに就農し、資金を借りて家の敷地に牛舎を建てた。和牛の繁殖農家として10年。雌牛を飼育し、産ませた子牛と、人工授精させた受精卵の販売を行っている。

採卵一ヶ月前になると牛の調整を始める。調整前の牛は群れにしてストレスを与えるという。「飯を食う時も肩がぶつかるくらいみんな一緒。そこから独りに開放されると牛の状態も上向くんです」それぞれの牛のベストコンディションが何処かということを個々で見つけてあげるのが大事だと拓未さん。「人間もそうですけど、牛も身体のコンディションに上り調子があって、平坦な時があって、落ちる時もあります。人工授精は上り調子のときにしないとダメ。上がりきって平坦になってからでは卵は採れないんです」

自然の摂理を見極める

一意さんが焼いた炭は、ホームセンターで売っているものに比べて、煙も匂いもないという。拓未さんは去年、平均して一頭あたり15個の使用可能な受精卵を摘出できた。その数は驚異的で県内でもトップクラスだという。

炭焼も牛飼いも「見極め」が大事だという。自然の摂理に目を凝らし、暮らしに活かす。そうした姿勢は世代が変わっても、この土地の生業に受け継がれている。