新型コロナウイルスの影響でマスクの品薄状態が続き、多くの人がマスクを手作りしました。その一つ一つに家族や知人を気遣う気持ち、今の状況を少しでも明るく過ごしたいという願いが込められています。また、顔の半分を覆うマスクはファッション性も重視され始めています。
これまでになかったマスクの楽しみ方は、我慢のときでも前向きに日々の営みを続けようとする、人々の創意工夫です。

マスクの品薄が続いていた4月、デザイナーの厚綿広至さんは妻の千恵さん制作のマスクをSNS上で次々と発表していた。古地図や家紋のマニアでもある広至さんらしい和柄や家紋柄の生地で作られたマスクと、それを嬉しそうに身につける広至さんの様子は、SNSのタイムライン上で知人を和ませた。「嫌がらずにむしろ進んでマスクをしたいと思えるように、好みの柄を選ぶようにしています」。普段マスクをする習慣がない家族のことを考えた、千恵さんの工夫だ。

医療の仕事に従事する千恵さん。仕事柄、日常的な買い物は必要最低限とし、人の少ない深夜の夜勤終わりに買い物をするなど、外出自粛を徹底してきた。先のことを考えると、時々不安に押しつぶされそうになるという。しかしそんな中、広至さんと二人で息子の常磐くんの成長を見守ることが毎日のモチベーションになっている。まだマスクをする意味もわからず、嫌がることもあるという常磐くん。千恵さんは、常磐くんが大好きな新幹線柄の生地でマスクを作った。

仙台市のコワーキングスペース「ソシラボ」では、コワーキング会員の不安を解消する目的で、3月末から手作りマスクを原価で販売し始めた。限定的な営業となり、会員の出入りが少なくなっていたソシラボ。マスクの製作を務めたスタッフの村上悦子さんは、常連会員と会えなくなった寂しさに、日常のありがたさを改めて感じていたという。マスクづくりには、一日も早いコロナ収束の願いを込めた。

制作は材料探しで難航した。一時期は手芸店、ホームセンター、100円ショップ、どこに行ってもマスクに使えそうな布や紐が見つからなかったが、厚手のクッキングペーパーや、自宅でストックしていた布を使用してマスクが完成。紙マスクと布マスクあわせて100枚以上を販売した。

「マスクありがとうございます。コロナが早く収束しますように。一緒に頑張りましょう」。マスクを送った会員からのメッセージが、人に会えない中ですごく嬉しかったと村上さんはいう。

これまでマスクは市販のものを買うだけだった。マスクは衛生用品であり、機能のみが重要だった。しかし、手作りマスクは村上さんが思いを託し、会えない中でも人と人を結びつける手紙になった。

立体型の布マスクを見たとき簡単に手作りできそうだと思ったのがきっかけで、マスクづくりを始めたという澁谷由利子さん。情熱をもって取り組んだのは、大好きなユニオンジャック柄のマスクだった。

最初はアイロンプリントを用いて試作。立体裁断のマスクに直線の柄を落とし込むために試行錯誤を繰り返して型紙が完成したが、布の全面にアイロンプリントを施すと通気性が全くなくなり、息苦しいことがわかった。現在は赤ちゃんの洋服にも使える布用の絵の具で手書きする形に落ち着いた。「私と同じようにユニオンジャックが大好きな友達に、上手くできたら送ってやれというつもりで作っていました」

好きなものを身につけるとテンションが上がるという澁谷さん。他にも、持っている服と合わせた迷彩柄のマスクや、夫とおそろいのマスクなど、新しいファッションアイテムとして、マスクづくりを楽しんでいる。

「綺麗な色や柄のものを身にまとうことで内側から元気が溢れてきます。お着物を着ていると世界がキラキラ輝いて、普段とは全く違って見えるんです」。和装が趣味の陽子さんは、着物を着るようになってから、「変わったね」と娘に言われるようになったという。陽子さんにとって、鮮やかな色使いや大胆な柄が特徴のアンティーク着物は、仕事や家事などを地道にこなす日常から、非日常へと飛躍するための手段だ。

そんな非日常の装いに、日常的なアイテムであるマスクは似合わないようにも感じるが、着物姿でマスクを付けることには、はじめから抵抗がなかったと陽子さんはいう。「帯留めやかんざしのようなアイテムが1つ増えたという感覚です。ただ、着物は帯や髪飾りも含めてトータルでコーディネートしているので、マスクもその中でバランスの取れるものにしたいです」。顔周りにアイテムが増えたことで、単体では主張の強いイヤリングもマスクとの組み合わせを楽しめるようになったという。

Back to Top